2025年春、「松山智一展 FIRST LAST」が東京の新たなアートスポット・麻布台ヒルズ ギャラリーで開催されます。本展は、ニューヨークを拠点にグローバルな活躍を見せるアーティスト松山智一の東京で初となる大規模個展です。四半世紀にわたって現代アートの本場ニューヨークで活動し、いまや世界が注目する次世代のアーティストのひとりとなった松山の日本初公開となる大規模作品など19点を含む、40点以上の作品が展示されます。さらにこの機会に、展覧会タイトルにもなる、新シリーズ「First Last」を発表します。松山の特異なアイデンティティを通して捉えたグローバルな現代社会のリアリティを、迫力ある色彩と壮大なスケールの絵画で体感いただける展覧会です。
新シリーズ「First Last」
(後の者が先になり、先の者が後になる)
英語で「最初で最後」を意味する本シリーズは、松山智一のキャリアにおいて、ようやく到達した東京での大規模個展開催までの長くとも短いような道のりを反映しています。同時に、絶えない課題によって均衡が保たれるパラドキシカルな現代社会に向けた、松山からの謎めいたメッセージ、「後の者が先になり、先の者が後になる」でもあります。岐阜の飛騨高山で生まれ、クリスチャンの両親の元で幼い頃からキリスト教を身近に育ってきた松山は、少年期のアメリカでの生活を経て帰国子女として青年期を過ごし、そしてニューヨークでアーティストとして活動を始めてからも常にマイノリティであり続けました。二極化が進む政治が引き起こす分断、格差や対立、ジェンダー平等のパラドクス、情報操作やフェイクニュースなど、混沌とした現代社会において松山は常に問いを立て続けます。はたして我々は何によって報われるのか?本シリーズでは松山が、アメリカ社会が抱える諸問題を起点に、自身の特異な背景がもたらす独自の視点を通して世界を捉えなおし、芸術によって新たな共感を創り出します。
本展の見どころ
■キャリアを変えたあの大作から最新作まで!日本初公開作品、19点を含む作品群でその軌跡をたどる
横幅6mを超える絵画作品《We Met Thru Match.com》は、まだ世界から注目される以前の松山が数か月にわたり昼夜を問わず描き、キャリアのターニングポイントとなった大作。さらに本展では、これまで上海やヴェネツィア、ロンドンなどで発表され、海外でしか見ることの出来なかった日本初公開作品や最新作19点など、代表作と合わせて40点以上が展示されます。壮大な絵画や空間に広がる巨大な立体など、松山智一の近年の作品群が東京・麻布台ヒルズ ギャラリーで一堂に会します。
■眩いばかりの色彩の中に多文化の十字路を体験する
松山の絵画から放たれる眩いばかりの色彩は最大の特徴の一つ。自身で作った何千という色のストックが様々な技法によって、キャンバスの上で共鳴します。世界を彩る多様な文化、伝統、宗教、そして歴史的なものや現代的なもの、さらにはハイカルチャーから日常品といった要素は、松山によって無数の色で描かれ、情報化の中で移ろう現代社会の姿を映し出し、混然一体となって鑑賞者を色彩の世界に没入させます。
■同世代の表現者たちとの共作
ニューヨークでキャリアをスタートした松山にとってクリエイティブ・コミュニティとの接点は日常であり、様々なジャンルの表現者との交流のなかで表現領域を拡張してきました。日常性と社会性をアートの文脈でどう捉え、表現できるかを常に模索してきた松山は、同時代を生きる彼/彼女らとの自然発生的に生まれる対話が時代の声になると考えます。本展の地下1階の麻布台ヒルズ ギャラリースペースでは、松山と共鳴する表現者との共作の数々を発表します。
本展キュレーター・建畠晢からのメッセージ
古典古代と現代、西洋と東洋といった対極的な光景を、他に類を見ない文化的包容力でサンプリングし、私たちを魅了する壮麗なスペクタクルを生み出すアーティスト、松山智一。その不可思議で遠心的なハーモニーとも言える世界は、アイデンティティの多重性が誰にとっても避けられないテーマとなった現代に対する、非常に鋭い批評でもあります。
プロフィール
国立国際美術館主任研究官、多摩美術大学教授、国立国際美術館長、京都市立芸術大学学長、多摩美術大学学長、コロンビア大学訪問研究員などを歴任。美術館と大学で現代美術の展覧会企画や教育研究に携わるとともに、ヴェネチツィア·ビエンナーレ日本館コミッショナー(1990、1993)、横浜トリエンナーレ(2001)、あいちトリエンナーレ(2010)、東アジア文化都市京都「アジア回廊」展(2017)など国際美術展の芸術監督を務めてきた。
受賞歴はオーストラリア国家栄誉賞、文化庁創立50周年記念表彰、京都市文化功労者。詩人としては、歴程新鋭賞、高見順賞、萩原朔太郎賞を受賞している。